「訪問者の声」
「経営労務ディレクター2019・7~8月号」より
~カラーコンサルタント 成田イクコ著〜
地域のことは地域に住む人間でないとわからない、という意見がある。事実そうだろう。しかし、今回は、外から訪れた人だからこそ気づくこともあるのではないか、という視点から考えてみたいと思う。
数年前に広島県の鞆の浦を訪れた。風光明媚な土地のせいか、多くの映画やドラマのロケ地にもなっている。観光客も多い。時期的に毎年恒例の「町並みひな祭」が行われており、各店舗や公共施設では、様々な雛段が飾られ観光客にも公開していた。そのため店内に入って街の人達と直接話す機会をもつこともできた。
今でも昔の繁栄した港町の名残もあり、街全体に趣はあるのだが、道路幅が非常に狭く車と人が譲り合いながら行き交っている。それを解消するために、広島県が1983年に埋立て架橋計画を策定した。しかし、それに対して反対する人達も多く、訴訟(有名な鞆の浦景観訴訟)になった。最終的には2012年に広島県がこの計画を断念した。この訴訟については、以前、記したので詳細は省くが、反対する人達は住民だけでなく、全国の鞆の浦の歴史的景観の保全を求める人々も多くいた。つまり、住民だけでは便利さを求める人達と景観保全(観光に影響も与えかねない街の景色を変えることを懸念する)を維持する人達の二分に分かれていたところに、この小さな歴史ある港町の景観を残してほしいという声が全国から届いたのである。今回の訪問の際に街の人に埋立て架橋の話を伺うと、「外から来られた人の意見は大事なのです」と言われた。
2019年3月の末に、私の所属する日本色彩学会環境色彩研究会が「日本の景観—屋根・眺望景観から《考える》環境色彩」というテーマでシンポジウムを開催した。登壇者は神戸芸術工科大学教授の西村幸夫氏、岡山県高梁市市長の近藤隆則氏、島根県江津市都市計画課長の山本雅夫氏。研究者、自治体の首長、都市計画の行政マン、それぞれの立場から景観形成や屋根瓦がつくる景観等について語って頂いた。西村氏は、全国各地で取り組んだ街づくりにおける景観形成について、高梁市長はベンガラで吹屋通りという伝建地区における景観保全の取り組み、江津市の課長は石州瓦の赤瓦が織りなす景観形成のための施策を講演された。
その後、色彩の専門家を交えてのパネルディスカッションでは、実際に展示した12枚の石州瓦を目の前にして、それらの色・ムラについて具体的な話が交わされた。住民にとってはあたりまえの景色である、さまざまな風合いの赤瓦による景観の美しさを実感するのは外から訪れた人達かもしれない。住宅メーカーが提供する瓦のない家を選択する住民も多い中、街特有の景観の美しさを訪問者が発信することがいかに大事であるかを、参加者に伝えてシンポジウムは終わった。
住民が気にもかけない風景が財産となっていることを、外から訪れた人が伝えることで地域の宝も守ることができるのではないだろうか。
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