「道路の色彩環境」
「経営労務ディレクター2010・3~4月号」より
~カラーコンサルタント 成田イクコ著 ~
最近では、歩道を歩いていても、あやうく疾走している自転車とぶつかりそうになることが多い。昔にくらべて自転車の保有台数が増えていることもあって、自転車と歩行者の事故も増えているらしい。国土交通省も警察庁もそれに向けての対策を考えているようだが、その過程で施されているのが自転車道や自転車専用レーンの識別のためのカラー舗装である。どうもこれが周囲の景観を損なっているように思えてならない。そこで、今回は現状の道路景観における色彩について考えることとしたい。
これまでも景観の色彩については述べてきたが、そこで取り上げてきた対象は、建物や工作物の色彩が主だった。その場合、建物自体は私有物であっても、公的な空間に存在するものであるから、建物の色を決める際も周囲の環境を考えましょう、というのが、景観の基本的考え方である。その一方で道路は、一部の私道を除いて国や地方の公共物にあたるものである。だから、民間と違ってさまざまな人々に景観への配慮を促す必要性がなく、国や地方の行政が、景観を考慮した舗装の色などを決定することでよいのだから、話は簡単なはずである。ところが、現実は景観について考慮しているようには見られないケースが多い。大きな道路の交差点あたりの舗装に赤が塗られていたり、信号近くの車道上にもべったりと赤の色が塗られているケースが見られる。ドライバーがそれに思わず気をとられて信号が目に入らないといったことも聞く。さらに、最近では、自転車専用レーンがつくられる中、歩道を歩行者用と自転車用に区分し、その識別のために、自転車通行のエリアにあざやかな青や緑の色で塗色しているケースが多くみられるようになってきた。
こうした自転車道や自転車専用レーンの環境について考えてみる場合、参考になるのが、ヨーロッパの道路施策であるが、そこでは車道と自転車道と歩道が物理的に分断された分離式がとられているケースが多いため、三者が同じ道を使わないですむようになっているらしい。これは、安全性の点からも最も望ましい環境である。
日本の行政のように、安全策をとる方法として、舗装に色を塗ることによって視覚的な分離方式をもって注意を喚起しているのだという方法がいかに安易であるかがわかるだろう。住民の方もそうした塗色による違いを認識して、自転車専用レーンに沿って自転車を走らせているかとなると、どうも観察している限りではそれほど認められないのである。つまり、自転車専用レーンが一般に周知されていないのである。自転車のマナーの問題でもあるのだが、行政側にも、やみくもに塗色することが安全に繋がるわけではないことを認識してほしいものである。
舗装環境は、街の景観に非常に影響する。たとえ、建物の色彩景観が良好であったとしても、道路上にあざやかな色が延々と塗られていたら、せっかくの景観を壊しかねないのである。また、景観法によって自治体が民間に対して建築物の色彩の規制を行っておきながら、公の道路がどんどん派手になっている姿は市民にとっても納得がいかないだろう。もちろん道路環境を考えるのには、まずもって安全が重要であるが、同時に景観も考慮する必要性がある。舗装道に色を塗らなくとも、地域の景観にあった素材の違いによって区別を設けることができること、自転車と歩行者のエリアの分離を周知させる啓発活動を行うこと等によって安全と景観の両側面を守ることが可能だと思われる。これらをうまく遂行できないのは、道路行政の縦割りシステム、塗装業界の利権などが背景にあることも原因と考えられる。つまり、道路行政の問題の一端が自転車専用レーンのカラー塗装といった状況からも伺われるといってよいだろう。道路環境といえば、騒音について問題になることが多いが、さらに騒色問題が加わってはほしくないものである。
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