色彩研究室 COLOR STUDY ROOM
色彩研究室ブログ
2020年1月30日(木)

「色から視る・日中の歴史」

 「経営労務ディレクター2016・11~12月号」より
~カラーコンサルタント 成田イクコ著〜

  

  聖徳太子が創案した政治改革の一つに冠位十二階制がある。17条憲法のだされた604年につくられた。その前年の603年には六色十二階制ができている。冠の色によって朝廷における席次を定める制度である。古代中国の漢時代のさまざまな制度を参考にしたそうだ。その後、647年には冠と衣服の色をもって位階をあらわす制度ができている。七色十三階の制である。七色とは一、二が深紫、三が浅紫、四が真緋、五が紺、六が緑、七には指定がなかった。位階に応じて服色まで制定されているのは、世界でも珍しい制度らしい。その後も服色は改正されている。朝服色(官人が朝廷に出仕する時に着用した衣服の色)の色彩に使う染料には常に薬草を使用してきた。古代から病をなおすために薬草の汁を使ったり見につけたりする風習があったのである。

  色から想像できる一つの史実がある。685年には上記の制度に大きな改正があった。その一つは皇族の色彩と諸臣の色彩の区別をしたことである。また、この年は日本の染色法の整った最初の年とも言われている。それは何を意味するか。この時代に初めて天皇の地位が確立されたのではないか、という説に繋がるかもしれない。

  692年には持統天皇が「天下の百姓に黄色の衣を着せよ」との詔を出している。もちろん日本のすべての百姓が黄色の衣を着たとは考えにくく、おそらく時の朝廷の対中国政策の一つだっただろうという説がある。当時の日本は政治、経済、文化等、高範囲にわたって中国から影響を受けていた。日本のものとして発展してきたのは宮廷における服色のみと言われている。だからこそ、日本の国力の充実したことを示すために色を用いたのではないか、黄色は当時の中国の皇帝の色であった。当時の色の示す役割を考えると納得できることはある。日本が日本として独立してやっていくために奔走してきたことで日本の独自性を確立することへの兆しが見えた時に、それを間接的に、しかし明確に伝える手段に色が使われたのではないだろうか。一見、中国の皇帝の色を日本の百姓の人達の色に使うとは如何なものか、とも思われるが、おそらく当時は、日本でも多くの人々に黄色の服を提供できるほどの染色の技術も余力もあるのだということを中国に示したかったのではないだろうか。あくまでもこれらは一つの説にすぎないことを申し添える。

  さて、当時の中国と日本の関係を現在の感覚をもって推測することはできない。しかし以下のことは言えるだろう。その頃の日本は国として政治を行っていく術を中国に学んだことは史実からも明らかである。日本と中国の関係は長い歴史の中で考えなければならない。そこには欧米との関係より比較にならないほど深いものがある。現在、二国の関係を良好にするにはどうするか、歴史を遡り古に学ぶことは多い。1000年以上も前から交流のあった国との関係を近視眼的に語ることは控えたいと思う。 

 

 

 


  

 

 

 

 

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著者 成田イクコ  出版元 かんぽうサービス



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