「なぜ騒色はなくならないのか」
「経営労務ディレクター2014・9~10月号」より
~カラーコンサルタント 成田イクコ著〜
前号に引き続き、色彩景観について述べさせて頂く。というのは、現在、問題となっている一般住宅街における騒色事件を事例に、なぜ、このような問題が起こるのか、について考えたいからである。
二階建て建物の外壁全面に、非常に鮮やかなオレンジの色を塗色した保育園が、さいたま市北浦和に登場した。非常に閑静な住宅街の中にあって、異様に目立っている。近隣住民の自宅の部屋の中の写真を見ると、この派手なオレンジ色が白い壁紙に反射して、昼間は部屋の中が薄いオレンジ色に染まったかのような状態である。この環境下で住民は、心身ともに落ち着かなくなるという生活を余儀なくされている。
この状況を保育園側に説明し、色の改善の申し出をしても話し合いがうまくいかない、ということらしい。直接の被害を受けていない住民にとっても、地域の景観に相応しくない騒色ということで、塗り替えを要請する署名活動が行われ、市にも訴えたが、住民にとって前向きな動きはない。困った住民の方々が「公共の色彩を考える会」に問い合わせがあったことで、一会員である私も現場の建物や周囲の景観を調査し、住民の方々の意見も伺った。
保育園が新しくできることは大変望ましい。しかし、問題は、なぜ、このような、けばけばしい色が落ち着いた色調の住宅街に登場したのか、である。まず、外壁をこのオレンジ色にした理由だが、園長の好みの色だったということである。オレンジ色自体が悪いということではない。色には面積効果と言われる性質があって、あざやかな色は、面積が大きくなるにつれ、より派手に感じられるため、建築物の色に使用することは、通常は考えられない。
一般に騒色事件が起こる主な原因としては、以下の二点が考えられる。一つは、建物の外壁の色彩は公共性がある、という考えが全くなく、個人の資産であるから自由にしても構わないという視点に立って色彩設計が行われること。もう一点は、建物の外壁のように大きな面積の色が人間に及ぼす影響を考えていないことである。建物の色彩計画を衣服の色選択と同様に考えている人がいるならば、これは、教育の中で伝えていく必要があるだろう。
騒色問題の解決策の一つになりうるのが、景観法において色彩規制が設けられたことである。但し、これは各自治体が、地域の特性に応じて設定するため、色彩規制の設け方は地域によって異なる。ここで問題となっている地区では、大規模な建築物のみ届出対象であり、それらに規制を設けているため、この保育園はそれに該当しない。よって、規制の対象とならなかったのである。景観計画の設定内容によって、騒色問題が防げないことが表面化したといっていいだろう。一方で、さいたま市内の景観形成特定地区にあたる地域では、全建築物を規制の対象としているため、このような問題が起きる可能性はない。
色彩景観の調査をしている中で感じられるのは、景観からその地域の共同体の強弱が推測できることである。たとえば、街づくり協議会を設け、熱心に街の景観に取り組んでいる地域のように、住民共同体が存在している地区には、行政も規制をかけやすく、その結果、景観問題が生じにくい。一方、共同体意識が認められない地区には、規制がかけにくい。個人の建物についての規制は、その地域に住む多くの住民が納得しなければ難しいからである。
たとえ閑静な住宅街であっても、住民が、自分たちの住んでいる街の有り様について、常日頃から興味と関心をもたなければ、ここで取り上げた同様な問題が起きるかもしれない。景観法で規制できることも限界があるだろう。自らの街や暮らしについて住民自らが考えていく体制をつくれるかどうか、まさに「共助」のシステムを考えることが必要なのだろう。
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