色彩研究室 COLOR STUDY ROOM
色彩研究室ブログ
2014年12月2日(火)

「武家が利用した色」

 「経営労務ディレクター2013・7~8月号」より
~カラーコンサルタント 成田イクコ著〜

  

   平安時代も末期になると、王朝文化華やかな貴族を中心とする時代から実質上の政権を担った武家の時代へと移っていく。今回は、武家の人達が、どのように色彩を取り入れたか、について考えてみたい。

  武人達の色彩について語る場合は、主に武装に使われる物具の色をもってみることになる。直垂、鎧、狩衣、甲、腹巻、軍馬、太刀、弓、矢、旗、旗印などは、貴族の場合の装束に相当すると言っていいだろう。

  これらの色は、貴族の色彩と全く異なる性質をもっている。前号で触れたように、貴族の装束の色彩は淡色が多く、類似的な配色が用いられることが多かったのに比べて、武人の色の特徴としては、単一かつ鮮烈な色、色同士の組み合わせも対称的な配色が多いといった、全く相反する色彩使用なのである。

  これは、なぜだろうか。その大きな要因は、生死をかけた戦場での身の処し方が背景にあるだろう。出陣の際には、死を覚悟した武人の心意気をみせることが求められ、かつ、戦の場では物具による人の識別が重要であったと言われている。

  黒澤明監督の作品の「乱」では、一軍全体を鮮やかな色で統一し、軍勢の違いを色の違いによって表わす色彩効果が、みごとに映し出されていたように、当時の人達は、個々の武人ではなく、集団全体の色合いに美しさを感じていたようである。物具の色は、武士の最後を考えての色であり、集団としての戦いの場の色であった。いわゆる、色に対しては、その視覚効果に価値を見出していたと考えられる。

   物具の色の具体例として、「平家物語」の中で平清盛が法皇の幽閉を企てる際に、「既に地の  の直垂に、黒糸威の腹巻の白がな物う(ッ)なるむな板せめて、・・・のひる巻したる小長刀」とあり、赤、黒、白の鮮やかな色が組み合わされていることがわかる。この装いに対して、当時の人達は勇壮感や畏怖を感じたらしい。
   
  このことは、色の名称からも伺える。物具に多く使われた「かち色」であるが、この「かち」とは、紺の濃い染色のことであったが、その名を「勝」という意味で縁起のよい名の色として捉えられていったのも、武人の時代の特徴であろう。つまり、色自体が戦乱の時代に即した形で認識され、それに利用されたのである。旗の色は、武門一統を表わすためであり、保元、平治の乱には、平家は赤、源氏は白、と色が決められていたらしい。 
 
   「平家物語」の中で、壇ノ浦での平家一門の最後が、「海上には、赤旗、赤(あか)符(じるし)、とも、切り捨てかなぐり捨てたりければ、竜田川の紅葉を嵐の吹きちらしたるに異ならず。汀に寄せる白浪は薄紅にぞなりける」と描かれていることからも、色の象徴性が伺える。

  赤の色は、武門で使われた色の一つにあげられるのだが、この時代の赤とは紅染めでなく茜染めの緋色であった。東京都青梅市の武蔵御嶽神社にある「赤糸縅(あかいとおどし)鎧(よろい)兜(かぶと)」(国宝)は、源頼朝の忠臣であった畠山重忠の合戦装束であり、それを奉納したと言われている。今でも鮮やかな緋色を呈しているそうである。後に、徳川吉宗が江戸城において。この茜染を再現しようとしたらしい。赤の威力に魅せられた武将は多かったのだろう。
 
  このようにして王朝文化の色彩は影が薄くなっていったが、宮廷関係の儀式などでは、それが使われる等、武人であっても公家風の色合いに憧れをもつ美意識はあったらしい。しかし、徐々に、それすらも姿を消していく。貴族から武人の世への移り変わりに伴って色が連動していく様相は、時代によって色の意味合いが移り変わっていくことを示してくれているとも言えよう。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 
  

 

 

 

 


  

 

 

 

 

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