「まちづくり」と色彩景観」
「経営労務ディレクター2018・1~2月号」より
~カラーコンサルタント 成田イクコ著〜
良好な色彩景観形成のためには、各自治体が、ある一定の色彩規制を景観法に基づく景観計画にて行うことが望ましいという考えを述べてきた。2004年に景観法ができたことにより色彩規制の法的根拠ができたことは大きいものがある。しかし、もしすべての住民が、自らの住宅などの外壁の色が街の景観を形成する公的な性格をもつ重要な要素であることを認識できていたならば、色彩基準という制限は必要がなかったとも言えるだろう。
現実は、景観計画の制定がされていても、大規模建築物のみが規制の対象となっている地区では、周囲の景観に似合わない鮮やかな色の外壁の一般住宅が登場しているケースが多い。それを見れば法的規制の対象範囲であったならば、と残念に思う次第である。
一方で、法的規制がなくとも良好な色彩景観が形成できている地域もある。たとえば神戸市もその一つである。神戸市の景観計画は他市と違って市全域を景観計画区域と定めてはいない。市では市民の自主的な景観まちづくりを支援することに重点をおいている。
こうした背景には神戸市独特のまちづくりの歴史があるように思える。「まちづくり」という点では、かなり昔から官民挙げて取り組んできたのが神戸市である。
現在、19のまちづくり地区があり、各地区ではまちづくり協定が定められている。その協定で色彩についてはどのように定められているか、について調査したところ、色彩規定なしは8地区、色彩は周辺との調和と書かれているのが10地区、色彩誘導指針を具体的に定めているのが1地区である。まちづくり協定に色彩規定が明確に定められているかどうかはそれほど問題ではないのだろう。それよりも、地区単位で、まちづくり協議会がつくられるコミュニティともいえるものが存在していることが、色彩景観を一定程度良好であることを維持できている原因の一つかもしれないと考える。
というのは、まちづくり協議会がつくれることは、その地区でのソーシャルキャピタル、いわゆる地域のコミュニティが存在していると思えるからである。縛りが強くない、ゆるやかなコミュニティは、良好な景観を保つ上で重要な要素となる。新しく地区に入ってくる市民も協議会があることで、協議会に相談をしながら街づくりに関わることになる。孤立することを防げる可能性もある。景観とは、その街のソーシャルキャピタルの存否が外から推し量れるものとも言えるだろう。
以上のことからも神戸市が市民自ら景観形成することを後押しする施策をとっているのは、住民自らのまちづくりを行うことへの自治意識を育て、それを行政と連携していく方法をとっているからかもしれない。良好な景観を形成するためだけに、まちづくり協議会がつくられるわけではない。しかし、自らが居住、あるいは商売をする地区が美しい街であることを望まない人はいないだろう。
景観形成の理想とするところは、街のコミュニティ自らの活動で景観を維持及び形成していき、それだけで難しい場合は景観計画による規制をかけるのが望ましいとは思う。今後は、多くの街が、行政だけに頼らず、自らの街を住民自らの手でより良くしていく方向性になっていくことを期待したい。
|