色彩研究室 COLOR STUDY ROOM
色彩研究室ブログ
2021年8月24日(火)

「神戸市の景観政策からみえてくること」

 「経営労務ディレクター2018・9~10月号」より
~カラーコンサルタント 成田イクコ著〜

  

   

   今年の初めに「まちづくりと色彩景観」について神戸市の景観行政を取り上げた。その際、景観形成の理想とは、街のコミュニティ自らの活動をもって景観を維持及び形成することであり、景観計画による規制はそれらをサポートする形にあるのが望ましいと述べた。今回は、それら街のコミュニティと景観形成に関して、神戸市の行政としての取り組みについて、もう少し丁寧に見ていき、良好な景観形成について考えたいと思う。

  政令指定都市(20大都市)の中で景観計画の制定方法を比較してみると、横浜市、京都市、神戸市の3都市を除いて多くの大都市は、市全域を景観計画区域に設定し、大規模建築物のみに規制をかけている。その一方で、一部の景観形成推進地域等を設け、そこでは全建物を規制の対象にしている。そうした制度設計と異なるのが横浜市、京都市、神戸市であり、一部の地域のみを景観計画区域にし、全建物を規制の対象としている。さらに神戸市の建築物の色彩規制は、他都市が設けている数値による規制ではなく定性的内容(周辺との色彩調和をとる等)としているのが特徴である。

  さて、神戸市の景観行政は、どのような歴史を辿ってきたのだろう。まず1978年に神戸市都市景観条例を制定し、1981年にまちづくり条例を制定している。神戸市は当初から景観まちづくりを標榜しており、都市景観条例の目的は景観づくりからまちづくりへと展開していくことだった。「景観」という言葉は国では建設省都市計画中央審議会答申で1979年に使われたが、神戸市では、その1年前に景観という言葉を用いた条例が制定されていたのである。また1986年には神戸市の条例がおすすめモデルとして取り上げられている。

  条例で指定された都市景観形成地域(7地域)は、現在の景観計画区域に移行された。この景観条例の構成が景観法の根拠となり、立法根拠となったとの指摘もある。景観法の本来の目的は自治体の条例や地域住民が締結する景観協定に法的強制力をもたせようとすることにあった。神戸市の景観計画は、この目的に合致していると思われる。

  神戸市の認定する景観形成市民団体や市民協定が景観形成に大きな働きをし、まちづくりの中で景観形成を担っていることが神戸市の景観行政の取り組みの特徴である。行政が住民の取り組む景観形成を伴ったまちづくりをサポートするシステムが構築されていることが、注目すべき点であろう。各地域で住民のつくった協定を基にまちづくり協議会などが、新規の建築物や意匠の変更の際に、色彩も周囲との調和がとれるように所有者の意向と共に考えていく。それが住民自らのまちづくりの一環である。数値規制がなくとも周囲との調和を考えることができる素地があるとみてよいだろう。

 景観計画とは、各自治体の景観行政の歴史、住民のまちづくりの歴史が反映していると思われる。神戸市は景観行政の先駆者ではあるが、そこには住民の活動をサポートするのが行政の役目である、という姿勢が貫き通されていたのかもしれない。

 


  

 

 

 

 

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