色彩研究室 COLOR STUDY ROOM
色彩研究室ブログ
2011年10月12日

 「青色の氾濫」

「経営労務ディレクター2010・5~6月号」より
              ~カラーコンサルタント 成田イクコ著 ~

 最近、防犯対策として、住宅街に青色の街灯が使われているのを見かけることがある。その背景には、青色照明は犯罪抑止の効果があると考えられているらしいのだが、これについては実証されているわけではない。どうもその発端は、イギリスのグラスゴーにおける犯罪率低下の原因が青色照明であったかのように、日本において誤解をもって受けとめられたことにあるらしい。
  
  また、防犯対策ではなくとも、クリスマスのイルミネーションなども暖かな電球の色ではなく、青色のLED電球が多く見られるようになった。これらは、都会の無機質な印象とマッチし、今までと異なった斬新なインパクトをもたらしているようだが、照明の本来あったぬくもりを感じることはなくなった。こうした現象は、もともと電球が提供していたであろう明るさと温もりの二つの働きのうち、温もりの必要性が低下したと考えた方がいいのだろうか。今、私達はコンピューターの画面と向かい合い、携帯電話も音声を聞くよりメールなど画像を見るといった使い方が多くなった。昼間から光色にあふれた生活があたりまえの中では、夜間の光に何を求めるのだろうか。そこには、穏やかな温もりよりも、むしろ非日常的な光の刺激を求めていたとしても不思議ではないだろう。

  こうした温もりとは程遠いイメージの青の光であるが、ここで少し青色について考えてみたい。「青」と一言で言っても、自然界で目にする海や空の青、光の青、物体色としての青などさまざまある。さらに、青を空間における内装の色として使うのか、建物の色として使うのか、衣服の色として用いるのか、といった使われる用途や面積の点からも同列において語ることはできないのである。人が、色とどのような状態で接しているのか、によって、同じ色であっても受ける印象、感じ方は異なる。屋外で寝転がって真っ青な空を眺めている状態と、部屋の中で青の壁に囲まれて横になっている状態とでは、同じ青を見ているとしても、心身の状態が同じとは思われない。

  よって、同じ条件で色に接するとして考えてみよう。たとえば、建物の色としての青はどうだろうか。日頃、私達が目にする建物の色は、ベージュ、白、灰色が殆どだろう。中でも一般住宅としては、外壁の色としてベージュや白を目にすることが多い。寒色の青色系統はそれほど見あたらないだろう。テーマパークとは違って一般の建物の色の場合には、建物の素材となる、その土地の土や石や木といったものの延長線上にある茶色やベージュ等の色ならば、人々の眼に自然となじむであろう。

 こうした、その色が自然素材から生み出される可能性があるのかどうか、といった考え方は、その色に近しい感覚をもちえるかどうかを判断する上では有効だろう。しかし、インテリアの色として青色の壁に囲まれた状態にした場合、どうであろうか。昔の日本家屋が土壁であったことを考えると、自然素材には見かけない色として考えるのが自然だろう。

  しかし、化学染料が登場し、今やめまぐるしい人工色の洪水の中で生活する私達は、こうした色の起源について考えを巡らすことがなくなっている可能性がある。そのため、一過性の色だけでなく、日常的に目にする室内空間の色に対してですら、あらゆる色を許容できうる感覚に変化しつつあるのかもしれない。また、こうした傾向は今に始まったわけでなく、おそらく相当以前から存在し、現在のように光色に包まれる頻度が高まっている中では、自然素材の色は、憧憬や懐古の存在になりつつあるとも思われる。となると、青の光は、ますますテーマパーク化する今の都市空間の中で、違和感なく日常のあたりまえの光として受けとめられていくのだろうか。

 

 

 

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