色彩研究室 COLOR STUDY ROOM
色彩研究室ブログ
2021年6月4日(金)

「色のワークショップとケアの関係」

 「経営労務ディレクター2017・11~12月号」より
~カラーコンサルタント 成田イクコ著〜

  

   

   20年にわたり、大阪府内の知的障害者の施設で色のワークショップ(施設では色ワークと呼ばれている)を毎月1回にわたり開催し、障害者の人たち(作者)が使用する色にフォーカスして作品の観察を行ってきた。言葉などの手段を用いて自己表現ができない知的障害者へのケアに役立てるよう、作品の中で表現した「色」に注目してきたのである。

    そこで、彩色表現を主とした色のワークショップがケアの現場に活かすことの有用性について検討することにした。職員が表現者である障害者をケアする際に何らかの影響をもたらしているのか否か、さらに影響をもたらしているならば、具体的にどのようなことかを明らかにすることにした。
 そのための方法として、施設の色ワークの担当者の職員を対象にアンケート調査を行った。調査内容は参加者の日常の生活と色ワーク時の様子の違い、作品内容と参加者の日頃の状態には関係があると感じたことがあるか、作品内容が参加者の日頃の状態からみて意外な印象を受けたことがあるか、色ワークが参加者に対して何らかの影響を与えていると思うか、職員が色ワークの参加者の状態や作品を観察することで、参加者への日頃のケアに役立つ面が少しでもあったか、などについて具体的な質問事項に対して回答を得ることができた。

  上記の調査結果を分析したところ、色ワークを長期にわたって行い、作者、そして作品を見守り、観察する職員にとって、日頃のケア業務にフィードバックできえる情報もあることがわかった。たとえば、施設の中での人間関係のトラブル、帰宅した家から施設へ戻った時の一時的な環境の変化等の際に、表現する色に変化が見られることもあることがわかった。おそらく、その時の不安定な心の状態や環境に慣れるまでの戸惑い等が、色の変化に関係しているのかもしれない。一方で、作者の体調が落ち着かなくなり、感情の発露が激しくなるといった状態が、色ワークを行うことで落ち着くこともあると同時に、それが彩色表現の使用色の変化という形をとってあらわれているケースがあることも認められた。

   今まで使用されたことのない色を用いた作品を目にした場合、その作者の中にある緊張感の存在や開放感の可能性に目を向けることが、日頃のケアにつながることもある。もちろん、それらの予測がケアの効果に明確で具体的な姿をもたらすとは限らないが、作者への注意の眼差しが向けられることで、日常生活でのケアの対処に有効に働くことがあると推測できるだろう。

   ケアする立場である職員は、表現された作品の色を受けとめる過程で表現者にとって必要な何かが色というメッセージになっている、ということを意識しつつ、その彩色表現を見守り、そして、一鑑賞者だけではなく、日頃の作者の状態を把握している立場だけに、それらを背景に彼らの中から発せられた色を通して、何を主張したいのか、を推測することが可能であるといえよう。

 今回の調査を通して、施設の中の行事に位置付けられた色ワークが、それを担当した施設の職員それぞれの日常のケア業務に何らかの効果をもたらす可能性が認められたと推測できた。

 

 

 


  

 

 

 

 

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著者 成田イクコ  出版元 かんぽうサービス



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