「カラーユニバーサルデザイン」
「経営労務ディレクター2014・3~4月号」より
~カラーコンサルタント 成田イクコ著〜
現在、これをお読み頂いている方の多くは、小学校の健康診断で色覚検査を受けられたと思う。もともと徴兵検査用に使われていた石原式色覚検査が、戦後も学校現場で行われていたのである。複雑な色模様の中で浮かび上がる数字の判読を問われる検査だが、この検査によって色覚異常の有無が判別された。色覚異常となる原因は遺伝であり、それに該当する人達の数は、日本では男性の5%、女性の0.2%を占める。男性の場合は20人に一人であるから決して少ない数ではない。見え方については、どのような色と色の見分けが難しいのかを一言で説明することはできない。というのも、本来、色を知覚するには視細胞の3種類の錐体が働くのだが、色覚異常の方の多くが、そのうちの一つの錐体の遺伝子がないケースに相当するからで、3種類のどの錐体をもたないかによって色の見え方が異なるのである。
かといって、色覚異常の方々が日常生活に大きな支障を感じているわけではない。しかし、かなり昔は大学の理工系や医系には進めず就職の際も不利な要因となった。徐々にそのような偏見がなくなり、今では業務に支障のない範囲で色覚を問われることはなくなった。色覚検査自体も差別の温床になるとの声により、文部科学省もようやく2003年度に健康診断の必須項目から外すことになった。
色覚異常について、一般の人から聞かれる質問に、「信号の色の見分けなど、自動車の運転に支障はないのですか?」や「赤と緑の区別が難しいと聞いたことがあるが、そうした色の組み合わせを使ってはだめでしょうか?」等がある。前者については全く問題ない。信号の色を一般の人と同様に見てはいないが、信号の色の区別はできる。運転免許の取得もでき、運転に支障は全くない。後者については、赤と緑といっても範囲が広いため、具体的に、どのような色を使用するかで影響は異なる。緑の場合、赤と間違えやすい緑と間違えにくい緑がある。黄緑っぽい緑は赤と間違えやすく、青みの緑は赤と間違えにくい。交通信号機の緑信号を青みの強い緑にしているのも、それに配慮しているからである。他にも見間違えやすい色は数多くある。たとえば、男女のトイレの表示を水色とピンクの色のみで区別すると混同が起きやすい。
そもそもこれらの問題は、色のみで違いを伝えようとすることにあって、現在は、カラーユニバーサルデザインの方法を行うことが推奨されている。たとえば、2003年夏以降、地上波デジタル開始時からは、テレビのリモコンのカラーボタンの下に色名が表記されることになった。日本製の文房具も業界団体の申し合わせによりペン軸に色名を表記することになっている。お手元で確かめて頂きたい。
カラーユニバーサルデザインとは、色の見え方の多様性に応じて情報がきちんと伝わるデザインを行うことである。そのために配慮すべきポイントはいくつもあるが、最も重要なことは見分ける必要がある箇所には、色以外のデザインを考えること、文字を組み合わせることである。白黒印刷のみで情報が伝わるかどうかを想像頂くとわかりやすいと思う。
さて、冒頭の色覚検査であるが、検査廃止から10年がたち、検査を受けずに育った世代の中には就職の時期を迎える学生もいる。就職試験で始めて色覚異常に気づいた人達も多いらしい。色覚での採用制限は、今では殆どないが、色を主に扱う職業では、自分の色覚を知った上で臨んだ方がいいだろう。色覚検査は、眼科でも学校保健室でも受けられる。その結果を本人に伝える際は、色覚の問題の有無ではなく、色の見え方の一つであることを説明したい。そして、色の見え方の多様性に配慮する社会をつくっていきたいと思う。
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