色彩研究室 COLOR STUDY ROOM
色彩研究室ブログ
2014年03月08日

 「色彩調和は永遠の謎」

「経営労務ディレクター2012・9~10月号」より
              ~カラーコンサルタント 成田イクコ著 ~

  「色」について悩む点の一つに、配色方法を挙げる人が結構多い。むろん、誰もが配色のコツのようなものがあれば知りたいだろう。色彩調和については、はるか昔から色彩研究のテーマであったのだが、未だに明快な答えがあるとは言い切れない悩ましい課題である。私も、セミナーなどで、配色方法について触れることがあるが、その際には、とりあえず20世紀以降の代表的な色彩調和論を紹介しているのが現状である。

なぜ、20世紀以降の色彩調和論が主流になったかと言えば、数値を使った色の表示が可能になったことで、定量的な定義をもって示されるようになったからである。しかし、当時は、これらについて、多くの人々が称賛したわけではない。数値による普遍的な定義は、芸術家にとっては表現の無限な可能性を狭めたように見えるため、かなり批判が寄せられた。

たとえば、有名なオストワルトの色彩調和論について、その一部を、おおざっぱに紹介するならば、同じ色相の中での組み合わせ(たとえば、水色と紺色など)や同じ色調の組み合わせ(薄い色同士、くすんだ色同士)が調和するといった規則的な考え方である。実際は、これらを定量的表示方法にて示したのである。その論の背景にあるのは「秩序」という思想である。オストワルトは1908年のノーベル化学賞受賞者だが、そうした化学の諸問題に向かった姿勢が晩年の色彩論にも関係したのかもしれない。彼に「調和は秩序に等しい」と語らせたのも、それと無関係ではないだろう。この色彩調和論について、画家のパウル・クレーは、「等価値の色調によって調和させるというひとつの可能性を、普遍的な原則にしてしまうのは、すべての精神の富を差し押さえにするようなものです。」と厳しく批判している。

色彩学者の福田邦夫氏は自著の「カラーハーモニー」の中で、「20世紀の視覚研究が生み出した統計数理的分析手法という時代意識が必然的に選んだものについて賛成や反対をとなえてみたところではじまらないともいえる」と述べている。考えてみれば、数値による普遍性を導き出す方法は、この20年近くの急激なネット社会の中で、我々は似た体験をしているのである。たとえば、コンピューターのソフトに合わせたデータ作成等は、皆が共有できうる大変便利な方法だが、その過程でアナログをデジタルに置き換える際に、何かが削ぎ落とされている可能性はあるかもしれない。

色彩調和論に限らず、どのような研究においても、そこに正解を見出そうとすればするほど、その時代時代の科学的手法を用いることになるのだが、それに伴う明確さと簡素さゆえに不自然な感覚がつきまとうのは当然である。それに加えて色彩調和には、それを感じる側の色の好き嫌いの感覚が関係している点も考慮に入れる必要がある。これについては、西洋よりも日本の方が、その傾向は強いかもしれない。少なくとも西洋には、クラシック音楽からもわかるように、芸術には理性が土台にあって成立するものだという思想があり、ハーモニーもその中で生れるからである。つまり、異なる文化において共通の色彩調和が成立することは難しいのかもしれない。

さて、今の21世紀のグローバル社会において普遍的な色彩調和は成立するのだろうか。科学者は、あるはずだというかもしれない。はたしてそうだろうか。グローバル社会が加速するほど、グローバルスタンダードといった普遍的な法則が求められるのだが、皮肉なことにその一方で、各地域の自然、歴史が異なることも、益々周知されるようになる。そのような状況の下、普遍的な色彩調和が存在するのか、未だ謎のままである。

 

 

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著者 成田イクコ  出版元 かんぽうサービス



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