色彩研究室 COLOR STUDY ROOM
色彩研究室ブログ
2014年04月08日

「カラーセラピーの可能性」

 「経営労務ディレクター2012・11~12月号」より
~カラーコンサルタント 成田イクコ著

  身の回りにある色によって体の緊張を解したり、心を落ち着かせたり、といった色が与える心身への癒し効果をカラーセラピー(色彩療法)と呼ぶ。誰もが、同じ色によって同じ効果が得られる、といった単純な話ではないのだが、色が人間の心身に何らかの働きを及ぼしていることは間違いないだろう。実際に、彩色活動のワークショップ(以下、色ワークと記す)を大阪府内にある知的障害者の施設の職員と共に15年間にわたって行ってきた中で実感したことである。そこでの参加者の色ワークの際に使用する色が、彼らの心身の発する声を代弁していると推察できえたのである。

そもそも、色が光であるという現実を考えれば、心身への影響は無視できないことは自明の理ではあるが、色彩療法というものが、どのように考えられてきたか、ごく簡単に触れておくこととする。古代の医師達は、呪術的な意味あいもあってか、色彩を崇拝し、色彩によって病人を診断し、色彩によって処方を行ったらしい。何らかの色彩療法は17世紀後半の啓蒙思想の時代まで行われたらしいが、近代医学はそれを放棄した。だが、近年になって、色光が病気の治療に効果的である実験結果も発表され、色彩が身体に直接作用することが示されている。

色彩学者の小町谷朝生は「色彩のアルケオロジー」の中で、「彩りは、眼から心身に伝わって全身的に反応を喚起する。体はその働きを捉えて活性化される。」と記している。以上のことを踏まえると、色が心身に効果的な影響をもたらす存在であることは否めない。では、前述の色ワークによる彼らの心身への影響について実証できるのか、と問われれば、それは、なかなか難しい。しかし、色ワークの作品で表現される色について分析することから、それらの可能性を説明でき得ると考えるので、以下に述べることとする。

色ワークの活動とは、用意された色鉛筆、クレヨン、色紙、絵の具といった画材と塗り絵用(具象、抽象柄、10種類以上)あるいは無地の画用紙を各人が選択し、毎月1回、活動時間(約2時間程度)の中で自由に描くものである。色ワークへの参加の有無は、毎回、各人の自由である。ただ、初めて参加
した人の中で2回参加した人は継続するケースが多い。長年の観察の中で、彩色方法が、おおよそ4つのパターンに分類できることがわかった。次に挙げる。

1.いくつかの限られた色(1~4種類)のみを使った彩色、2.かなり数多くの色を使って柄を細かく塗り分ける彩色、3.色を塗り重ねながら彩色、4.1.2.3.の特徴は見られないが、塗り絵ごとに数種類の色を用いて彩色。4のパターンの中には、1回の色ワークにおける彩色画の枚数が非常に多い(40 枚程度)ケースもいくつかみられる。時系列的に観察した場合、異なるパターンへと移行する人は非常に少ない。

上記のことから何がわかるかと言えば、ある彩色方法を継続して行うという行為自体が、各人の個性ということだけではなく、各人の無意識に内在するエネルギーがアウトプットされ、その結果、心身のバランスをとる方向へと背中を押しているのかもしれない、ということだ。というのは、自分自身の塗りたいと思う色を塗りたい方法で行うことは、いわゆる創作活動に伴う癒しとも言えるからである。

この施設で行っている色ワーク活動は、何らかの療法を目的として行っているわけでもなく、芸術作品を創作するために切磋琢磨しているわけでもない。しかし、色のもつ潜在力が彼らの心身にプラスの影響をもたらしている環境がそこにあることは否定できないだろう。少なくとも、この色ワーク活動が物語っていることは、積極的に自らが選択した色を用いて彩色を行う一種のアート活動はカラーセラピーの可能性を秘めているということである。

「色」について悩む点の一つに、配色方法を挙げる人が結構多い。むろん、誰もが配色のコツのようなものがあれば知りたいだろう。色彩調和については、はるか昔から色彩研究のテーマであったのだが、未だに明快な答えがあるとは言い切れない悩ましい課題である。私も、セミナーなどで、配色方法について触れることがあるが、その際には、とりあえず20世紀以降の代表的な色彩調和論を紹介しているのが現状である。

 

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著者 成田イクコ  出版元 かんぽうサービス



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